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異状死体の口腔所見採取の実地

※被検者の個人情報に関わる事柄は伏せて記事を書きます。






歯科研修医Miです。

令和6年能登半島地震の災害ニュースに接するたび、心が痛みます。

被災者の方々が早く平穏な生活に戻れることを祈ります。


さて自分は将来故郷の宮崎に帰ることを希望しています。

宮崎県も、いつかきたる南海トラフ地震で大きな被害が出ることが予想されています。

その時は自分が生きていたなら歯科医師として役に立ちたいと思います。


長崎大学の唯一人の歯科法医学のYH先生は、とても優しい女性の先生で、学生時代から熱心に教えて頂きました。

そのYH先生が、歯科研修医全体向けに歯科法医学セミナーを行ってくださった日にお声がけして、長崎大学に運び込まれた長崎県内で発生した異常死体の検案に参加して勉強させていただけることになりました。

今日はその、大学での死体検案で学んだことを書きます。


異状死体の検案は、死因の特定と、個人識別との、2つが問題になります。

もちろん死因の特定にも歯科法医学が役立つ場合もありますが、多くの場合は個人識別の方で役割を果たすようです。


今回の御遺体では、YH先生が横で助言をしながら自分に歯科所見採取をさせてくださいました。

そこで学んだことをいくつか書きます。

弛緩した舌はかなり体積が大きくなる。デンタルミラーが入らないほどの隙間から見ることになった臼歯部は、それがCRか天然歯質か、CRが上手いほど見分けがつきにくい。そこでYH先生が教えてくださったように、手のひらサイズのブラックライトを持って口腔内を暗くしてから照らすと天然歯質と見分けやすかった。かなり役立った。

②保険用語で所見採取をする。災害現場だと御遺体を収めた箱の表に歯科所見書を貼り、警察関係者などがどんどん見るので、歯科医療従事者同士だと通じる用語では意味がない

③白い補綴物は、その内部が見えないので、それが陶材焼付冠かCADCAM冠かなど分からないことがある。その場合は保険用語にこだわらず白色冠と所見書に書くほうが良い。

④腐敗が進んだ御遺体では口腔内にも蛆がわく。遺体発見現場が屋外ならわくやすいし、屋内でも窓が開いているとわく。腐敗死体は大きく開口させると組織が割ける。割いてしまって関係ない死後の傷を作らないように注意する。逆にまだ顎関節の硬直が強い御遺体では本当に開口が難しい

⑤見えない部位は、自分の指を入れて触診しても役立つ

⑥翼状捻転など、歯科治療痕ではないけど後々個人識別に役立つかもしれない歯列の所見も書く。書くスピードがなかなか追いつかないから、筆記者とちゃんとコミュニケーションを取りながら進める。

⑦口腔画像撮影は、普段の診療では介助者に口角鉤を使ってもらうが、忙しい警察官の方々に補助をお願いするよりも、アングルワイダーを上手く使うと一人で行えるのでアングルワイダーでできるようになるといい


自分はこれからも研修修了まで、勤務時間外に異状死体の検案が発生したら参加させてもらう予定です。


長崎大学病院の研修では、様々な世界の扉が開かれています。

後輩たちにも、興味をもったらその上級医に声を掛けてみてほしいです。

きっと現場に連れて行って様々なことを教えてくれます。

ぜひ歯科法医学にも飛び込んでほしいです。


最後に、やってしまったお話が一つあります。

検案が終わり、YH先生が私の帰り際に、「今日はお疲れ様」と紅茶のペットボトルを2本差しだしてくださいました。

自分は何を思ったか、「有難うございます!1本は家族にあげます!」と2本とも取ってしまいました。

たぶんあれは、1本はYH先生の分で、1本だけMiの好きな方を選んでねってことだった気がします。

笑って両方渡して下さった優しいYH先生に申し訳ない現在です。



歯科研修医 Mi


※画像出典

1枚目『警察歯科医会・身元確認マニュアル』社団法人 日本歯科医師会・警察歯科医制度検討委員会、日本歯科医師会雑誌2009年61巻12号、p1

2枚目『日本歯科医師会・身元確認マニュアル』社団法人日本歯科医師会、p58



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